黄昏時のような色合いで ややぼんやりと灯された明かりの中、
ちょっとした小学校の講堂ほど広さの絨毯敷きのフロアは、
日頃はテーブルと椅子の席が設置されているのかも知れないが、
今は極力何も置かれてはないフラットな空間が設けられており。
壁際に小さなブースがあってソフトドリンクなど出しているようだが、
危険のないようにとの考慮かペットボトル飲料に限られている模様。
そんな扱いであるにもかかわらず不平不満の声は上がらず、
場内にはそこそこ集っているらしき人々の、
むしろ どこか楽し気なトーンのざわざわという談笑の声が満ちている。
そんな中、
ロウソクの火をふっと吹き消すように
仄かなそれだった照明が音もなくの唐突に落とされて。
それを不安に感じたような小さな声が、ほんの一瞬あちこちで上がりかかったものの。
カチカチカチという硬質な音が短くリズムを刻んだそれを追い、
どんッという勢いと圧を含んだ演奏が始まれば
場内はそれに弾かれたかのように うおぉっという歓声で一気に満ち満ちた。
「今年もトップバッターは ウチらだよっ。」
名乗りはなかったが お集りの皆様には要らないものか、
お元気で手短なご挨拶から そのまま軽快なリードギターがメロディラインを奏で、
巧みなスティック捌きでドラムが腹に響くリズムを刻み。
ビートの利いたベースが音律を駆け上がるのを、
キーボードがビオラやチェンバロの音色で寄り添うように盛り上げる。
ホールは暗いままだが、目映いライトが照らし出した一角に、
客席とはわずかに距離と段差を取って小ぶりなステージが設けられていて。
フロントの位置で、スタンドマイクを両手で包み込むようにして、
十代だろう少女がシャウトを織り交ぜ 何やら歌い始めており。
彼女だけじゃあない、楽器担当も全員同世代だろう十代くらいの少女ばかり。
イマドキのアイドルユニットが着ていそうな
どこぞかの名門女学園風 ブレザーとプリーツスカートの制服もどきという衣装を揃えた、
所謂ガールズバンドの生演奏。
此処に集った人々はこれをこそ目当てにしていたようで、
ユーロビートか小気味のいい曲へ、聴衆の側も全身でノリにノッている模様。
どの少女もさほど体格がいいわけでもないのに、
中身の詰まったそれはさぞかし重いだろうエレキギターを、それぞれの腕へと抱えていて。
とはいえ、そんなことは欠片ほども苦行ではないものか、
巧みにコードを操っては お馴染みのナンバーなのだろう、
恋も学校も知ったこっちゃないないという歌詞の、それはお元気な楽曲を奏で続けるミューズたち。
キーボードさんのパーカッションと ドラムの拍動が小気味よく翔るのへ乗っかって、
演者の彼女らもまた 可憐な足元が軽快にステップを踏み、全身でリズムやビートを刻んでおり。
照明を絞られた客席側ではではで、彼女らの親衛隊級のご贔屓さんたちなのか、
ピンクや青、黄色といったカラフルな発光スティック、ルミカライトを手に手に声援を送る青年たちがにぎやかだ。
「お元気だねぇ。」
年末の一番慌ただしい頃合い、
クリスマスと 大みそかのカウントダウンの狭間に毎年催される とあるセッションがある。
中規模じゃああるが 横浜でも結構知名度の高いライブハウスで開催されるそのギグは、
その筋では 結構人気もあるらしく。
そこ出身のメジャーバンドも幾組か…というほどの店であるせいか、
もう何年目となるものか、それなりの歴史もある催しだが、
数年ほど前から、
その仕様がちょっとばかりユニークな衣替えしたことでも贔屓らの間で話題となった。
そもそもは、所謂 軽音楽、バンドユニットが週替わりで演奏していたライブハウスだったのが、
折々のバンドブームと噛み合ったか 人気を博したその勢いを経て、2号店を新設。
その際に、経営陣の差配により、店ごとに演者らをボーイズとガールズとに分けてしまったのだ。
前から馴染み深い1号店ではガールズバンド、
ちょっと賑やかなところに新規で構えられた2号店では男性バンドを主軸に据えて、
それぞれ個性あるスタートをはかったところ、今時の風潮にあったのか、どちらも大きに盛り上がった。
新店を男性ユニット主体にしたのは、客層がどうしても女性中心となるため、
大通りに近い治安に不安のないところの方が良かれと思ったという、いたって単純な理由から。
『もうちょっと込み入った辺りの事情を言えば、
男性ビジュアルバンドに寄って来る中の ちょっとミーハーな女性客と、
アイドル系とかガールズバンドのファン層が 微妙に水と油だったんで衝突回避のためもあったらしいけどね。』
ガールズバンド専用としたわけじゃあない、実力派の幾組かはどちらのホールにも出演したし、
その筋のメディアへの露出の場が増えて取材される機会も増え、中央進出につながるチャンスも増えた格好。
かように そちらのホールには演者を問わずで男性客が主に詰め掛けたが、
古い馴染みから受け継がれたそれ、客の間に自然と紳士協定が結ばれており、
出演者のお嬢さん方に手を出すバカは滅多に現れなかったとか。
『創設当時は、ガールズバンドや地下アイドルなんてのが珍しかったせいか、
野次を飛ばしたり嫌がらせで演奏を中断させるよな、パーティークラッシャーみたいなバカも来たりしたけどね。』
そういう輩が出ると、自然と“彼女らは僕らが守る”という顔ぶれも生まれ、
数人で騎士団のようなものを結成し、意気が上がったそのまま ローディーを兼ねた護衛を担当。
純粋に演奏を楽しみたいとする正統派な客層も支援したため そのまま伝統は引き継がれ、
裏街に近い位置取りなのにもかかわらず
淫靡な話は欠片も生まれぬ、そういう意味合いでは健全で堅実なホールとしても名を馳せた。
本格派バンドと共に地下アイドルからガールズバンドまで、バラエティに富んだ顔合わせなので客層も多彩。
そんな演者たちへの人気投票が毎月集められていて、
年間総計の上位数組と特別枠の数人とが、クリスマス後夜祭と銘打ったセッションに出演できるというのも、
このホールの今や伝統となっている習わしで。
1号館にだけは日替わりで男性ユニットの上位もごちゃ混ぜに登場するけれど、
それはそれで男女関係ないバランスでファンのいるよな実力派なのでさして問題はない。
『むしろ 2号館に知名度のある女の子ユニットが行くと、
あからさまにトイレ行ったりするような空気になるらしいのがなんか厭らしいよねぇ。』
オーナーとの打ち合わせでそちらへ足を運んだ時に、たまたまそんな情景を見たらしく。
太宰と与謝野せんせえが、しょうがないねぇ若い子はと苦笑が絶えない様子だったとか。
そう。
何でいきなり、こんな畑違いもはなはだしい設定というか背景の話を長々紡いだかと言えば。
ようやっと辿り着きました、
我らが武装探偵社を頼りにし、
年末の繁忙期に飛び込んできた案件が、そのようなところを舞台にした代物だったから。
芸能関係というか、
生演奏つきクラブが絡むような案件を これまで一度も扱ったことがないではない。
良い意味でも悪い意味でも交易の基地として昔から名高いヨコハマという土地柄から、
夜の憩い、きらびやかな不夜城にも事欠かぬし、
そうとするせいか、そういった業種には 時にやや胡乱な輩も利権目当てという形で絡むのはよくある話。
暗がりという帳の陰で 酒をお供に交わされる内緒の会合が持たれるのは世の東西を問わぬ話だし、
何も絆を深めるのは男女関係や友情だけとは限らない。
あまり公明正大とはいえない密約だとか、
あるいはそれを裏切られたことへの報復に夜陰を翔る鵺たちの羽ばたきだとか。
夜を舞台とする場合、夜陰に紛れて…という物の例えだけじゃあなく、
“そんな面談なんてどこで持ちました?”というところまで 素っ惚けても通るのが暗黙の了解とされ。
冗談抜きに 恫喝の末の暴力、非合法な拉致やら脅迫などなど、
人外にも劣る輩らの百鬼夜行が ある意味 堂々とまかり通ってもいる土地柄と言え。
『他でもない、そのライブハウスのオーナーからの依頼なんだ。』
そもそもはオーナーの先代がバンド経験者で、
隠居してからも音楽に対する関心や情熱は衰えず。
コネや財力などという大きな力はないながら それでも才ある若いミュージシャンらを後押ししたいからと、
ほぼ持ち出しとなるよな良心価格でスタジオを貸したり、聴衆付きの演奏の場を提供したいと始めたもの。
実力と自信をつけ、名のあるアーティストになった顔ぶれも何組も巣立っており、
ホールそのものも若者の間では知らない者のないそれとなっている今、
だからこそか 由々しき事態を負いつつあるそうで。
ダフ屋もどきとか、出演している女の子と話しつけてやるぞ詐欺とかは昔っからあったそうだし、
それこそオーナーさんの恐持てな知り合いが
“勝手に何やらかしとんじゃ ”と凄みをきかせては追い払ってくれてもいたらしいんだが。
__ lineなんかで手筈を整えたうえで、
ウチの店の周辺で何やらきな臭いことを
取り引きだか手引きだか、している輩がいるらしくてね。
風営法でひとくくりにされて終夜営業禁止などなどという規制が掛かりかけた折も、
ウチは そこらのクラブのような 不純異性交遊の場じゃあないと、頑張って特別枠を貰った店だ。
だってのに、いかにも “胡散臭い輩め”というよな雰囲気での警察の聞き込みが増えたことへ
身に覚えのないことで今更 目を付けられるなんて業腹だと、
憤懣やる形無しな現オーナー氏から依頼され、関係ないことを証明してほしいと来たのだが、
『無いことの証明ってのは、実は結構 難しい。』
善行でも悪行でも やったことの証明は物理的な証拠を集めれば出来るが、
やってない証明はなかなか骨が折れる。
居なかったことの証明には 他所に確かに居た証言を。(アリバイがそれ)
悪さには関与していないと言いたいならば、真犯人をくくって突き出せばいいとばかり、
乱歩から割と単純な説明をされたのへは、成程と あっさり納得した敦だったが、
「まさか、こういう運びとなろうとは……。」
今はそれさえ後悔しきり、やや悄然としつつ ホール手前のバックヤードに立ち尽くしている。
自前の白銀の髪にはエクステで長さを足されての、うなじを覆う愛らしいボブヘアにとされ、
少年から青年への移行期という体格をカバーすべく、
サテンのブラウスに、胸元にはフリルをたっぷりとほどこし、
長めの袖にも手を隠すような萌え袖仕様を持って来て。
ややふんわり さらさらと揺れるスカートも愛らしい、
何処から見ても文句なく十代の少女に見える装いへと、その身を固められている。
『だって、どんな魔の手が襲うやもしれないのだよ?』
なので事務方の女性社員はもとより、与謝野さんやナオミちゃんでは無理だし
どんな荒事にでも対応できそうな鏡花ちゃんでは やや年齢が足りないしねぇとの
乱歩さんからのお言葉に合わせ。
いつぞやに、どっかの名家のご令嬢の影武者となった前科、( 知らないあなた 参照 )
もとえ 実績をしっかと覚えていた与謝野やナオミに 女性用更衣室へと引きずり込まれ、
逆らう暇間もないまま、寄ってたかっていじられて。
バンドガールなら、今のまんまの髪の色でも不自然じゃあなかろう。
若いからお化粧のノリがいいったらvv
相変わらず細っこいしねぇ。
このくらいの身長、イマドキは珍しくないですよぉvv
ヒールの低い靴で誤魔化せる。
わあ、鏡花ちゃんまで。(焦)
だってねぇ、問題の店ってのが1号店、つまりは女性演者専用のライブハウスだよ?
ネームバリューのあるバンドなら男性奏者も出られてるらしいけど、
敦くん 潜入捜査員として出入りする上で
全くの無名な新人さんって肩書を名乗るのだから、男の子のままじゃあ受け入れてもらえないよ?
…と、懇切丁寧に太宰が噛み砕いてくれた理屈は判らんではなかったけれど、
「やっぱり無理ですって、ボクじゃあ。
ただ黙ってりゃいいって立場じゃないんでしょう?」
太宰曰く、新人のアイドルさんとして潜入せよという段取りらしいが、
それだと先のご令嬢と違い、ただ引き回されてりゃあいいというわけにはいかない。
楽屋に入る以上、その日のステージに立たねばならないし、歌も唄わにゃあならないのでは?
ライブハウス側の皆様には事情が通じているのだから、下見しに来たって扱いでもいい?
いやいや いやいや、そんなややこしい“けれん”を構えずとも、
皆で手分けしてスタッフとして紛れ込んだらいいじゃないですかと食い下がったのだが、
『勿論、私や国木田くんはそっちへ回るさ。』
ピンっと人差し指を立て、鹿爪らしい表情になり、それも段取りのうちさねと言い返した教育係様、
『ただね、オーナーさんやマネージャーさんが言うには、
店の周辺で怪しい輩たちがこそこそしているとしか聞いてはないそうでね。』
変装用だろ、縁が黒くて太いめの素通し眼鏡を蓬髪の下へ掛けながら、
詳細を訊いてきた身として、乱歩とともに作戦を立てたらしき参謀の太宰は
あくまでも懇切丁寧に説いてくれて。
『軍警としたら店の関係者も怪しいとみなしているものか、あんまり詳細は教えてくれない。
これこれこういう風体の男が出入りしてないか、何か騒ぎに心当たりはないかとしか訊かれちゃあないのだが、
全く迷惑な店だよと言わんばかりの態度を見せる刑事さんもいたようで。
どんな悪行の気配を嗅がれているやら、そこから掘り起こさにゃあならない事案なんでね。』
洋楽にかぶれたバンドマンなんて惰弱とかどうとか、
かつて不良のように見下されていた頃の反骨精神に火が付いたのか、
他でもない、ヨコハマの顔役でもあった先代オーナーがご立腹なのらしくてねと肩をすくめ、
『窃盗の打ち合わせへの隠れ蓑か、それとも少女らをかどあかそうなんていう企みか。』
お嬢さんたちを襲うぞと、遠回しな脅迫を後援の青年らへ突き付けるつもりかも。
それともとも、将来有望な彼女ら憎しという依頼を受けた切り裂き魔が
ステージ終えた隙を衝き、非力な少女らへ襲撃を掛けるつもりか…などなどと、
どんな猟奇犯罪小説でしょうかと呆れかけるも、
そういったことにも縁がなくはない探偵社としては笑い飛ばすわけにもいかず。
『なので、いろんな格好で入り込み、監視もかねて なるだけ広く網羅しなくちゃあ。』
『ううう……。』
というわけで、新人の歌い手ですという触れ込みで、
女性演者たちの詰めている控室や楽屋やステージ周辺などへ
何か起きた場合の護衛も兼ねてのこと 目を配る担当を任されることと相なった虎の子くん。
少数精鋭、慢性的な人手不足の探偵社故、臨機応変なのは常のこととはいえ、
仕事どころか世慣れさえしていない朴訥少年であるがゆえ、
今回は特にフォロー役は必須。
とはいえ、マネージャーというか 付き添いに 存在感ありすぎる太宰が付いては…
男女ともから 良いにつけ悪しきにつけ人目を引いてしまい隠密行動がとれないし、
ライブハウスなんてなお店のバックヤードだなんていう、
クラブやバーとも微妙に異なろう 特殊極まれりな場所では、融通が利かなさそうな国木田は論外。
なので、如才の利くこと優先で、出来るだけやぼったく装った谷崎が付いた。
何となったら “MC候補の男の娘で〜す”で誤魔化しゃいいと、現オーナーさんとも話はついているものの、
「あら、見ない顔ね。」
「あ、えと。おはようございますっ。」
さすがに本番ともなりゃあドキーンと心臓が跳ね上がる。
襲い掛かられることへの対処じゃあなく、情報収集がメインのお務めなので、
ただ黙んまりで通すわけにもいかないところが前回の楚々としたご令嬢役とは多きに違う。
会話は何とか上ずった声で誤魔化して、
肝心なお唄は口パクで録音した素材を使ってもという案が出たものの、
此処は生バンドが売りだそうなのでそれだとテンポが合わなくなる。
なので、インカムから鏡花が上手に合わせて歌ってくれることになっており、
“いやいやいやいや、歌うような展開は無しですよね?
そこへもオーナーさんの了解も取り付けていますよね?”
毎年恒例の特別なセッションに出るなんて畏れ多くてとんでもないない。
ただ、新年度からはお世話になると決まったので、
どんな空気なのか見ておいでと所属事務所のチーフさんから言われましたぁと、
一応はそんな設定になっている筈。
「大丈夫だからね?ね?」
緊張の素振りも新米らしくて効果的ではあれど、そうまで固くなっちゃあ肝心な監視や護衛が出来なくなるよと、
普段の天真爛漫な敦を知っておればこそ、同情半分 励まし半分という声を掛ける谷崎で。
「ちょっと、」
そんな微妙な地下アイドルの敦子ちゃんに、到着早々いきなり声をかけてきた存在がある。
いかにもアイドルっぽい、一昔前のリカちゃんのドレス風と思ったものの、
もっと正確に分析をするなら、これはどちらかというとゴスロリとかいう傾向だそうで。
本日の共演者の中の一人らしく、別のライブハウスからゲストとして招かれていた歌い手ちゃん
“…だったよなぁ?”
一応は基礎知識として刷り込んできたデータを、胸の内にて大慌てで爪繰る敦ちゃんで。
見た目そのまま まだ十代ながら、確か確か今日の顔ぶれの中では割と芸歴の長いベテランさんではなかったか?
セミプロというにはなかなか完成度の高い美少女で、
唄もステージさばきも堂に入っており、
足場にしているハウスではトリを務める真打ち、固定ファンも抱えているらしいが、
性格にちょっと難ありか、こりゃあ天上界たる芸能界には抛り込めんわと、
所属している事務所からも微妙枠扱いされているとのちに知った存在らしかったが。
そんな肩書付きの、それでも十分に先達なお嬢さんであり、
「毛色が変わってるとはよく言うけど、あんたそのまま 毛の色おかしくない?」
高飛車な物言いをして来たマウント少女の言いようへ、
まずはインカムの向こうで鏡花がぎりりと奥歯を噛みしめ、国木田が必死で押さえたそうで。
こちら側から騒ぐわけにはいかないのは勿論だったが、
「おいおい、Mちゃん。 」
それはどちらさんへも言えること。
一応は、ヨコハマのライブ筋でも名のあるセッション。
そこに出られるだけでもいろいろとチャンスだし、
よって問題起こすなんて以ての外、他の皆様から睨まれるのは必定で。
そういう背景もあってのこと、大人しくしていれば大丈夫、
こういうとこにありがちな やっかみから絡まれるということはないはずと励まされていた敦ちゃん。
此処は谷崎さんにお任せして黙っていようと 首をすくめかかっていたのだが、
「社長からも言われただろうが、要らねぇ騒ぎを起こすんじゃあねぇよ。 」
「だってぇ。」
早速の洗礼か、突っかかって来かけていたお嬢さんを嗜めるようなお声がかかり、
ホッとしかかった弛緩と同時、でも 待て待て この声どっかでと、
お仕事仕様で微妙に冴えてもいた感覚が働き、頭の中のサンプルデータを大急ぎで照会開始状態となりかかる。
それと同時に俯いていた顔を上げれば、やや尊大なお嬢さんの傍らに立ったそのお人が視野へと入ったが、
「…え?」
「あ? 何でてめぇが……」
彼女の付き人なのだろか、
一応は背広姿だが、髪は赤いし シャツも襟元を随分とくつろげた着方という
あちこち随分と砕けた恰好の男の人が立っており。
伸びやかなお声で諫めるような口調で窘めた辺り、世慣れてはいそうな雰囲気のそのお人、
敦には見覚えがありすぎるお人だったため、うっかりと妙な声が出そうになったほど。
そちらさんもどこかギョッとしたような顔になっていたし、敦の側からだって見間違えるはずがない。
だってだって、そのお人は……。
“何で中也さんが居るのぉ?”
【 どうしたんだい? 敦くん? 聞こえてる?】
インカムから聞こえてくる司令官担当の太宰さんのお声にも反応できぬほどの驚愕状態。
彼のお人の眼鏡のレンズの内側には、こちらが観ている視野の画像も送られているはずで、
敦が何へ驚いたかも伝わったものか、
【 ………チッ。】
日頃 余裕の塊みたいな佳人様には珍しくも、それは判りやすい低い舌打ちの音が聞こえて来たほど。
やっと役者がそろったぞという前振りの章、
長々とお付き合いくださりありがとうございましたvv (おいおい)
to be continued.(19.12.22.〜)
NEXT→
*もんのすごい駆け足でお送りいたしました。
ただの前振りにこんな掛かってる相変わらずの下手くそです。
冗長がすぎて目がすべるばっかだったら ごめんあそばせ。

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